

鮎釣りの話をもっと聞くために、
むかしから古座川で鮎釣りをしているという、
麦わら帽子のよく似合うおじいちゃんを訪ねました。
小さい頃は竹を、4本くらい継いでやってたんよ。
私が高校生くらいまでは漁業権なんかもなくて、
誰でも好きに捕ってたから。 ――それからいまでも続けているのは、やっぱり楽しいから…… うん、楽しい。
一瞬のヒキが、
かかったその瞬間がね、やっぱりすごいんよ。
もちろん、みんなそれに憧れてやっとるんやと思うけど。 ――特に印象深いことを教えてください。 特に大きい24センチ以上の鮎がかかったときは、
引く力で竿がピュッて鳴るんよ。
それを、糸が切れるか、
引っかかってる身が切れるか、
その一か八かのやりとりで捕る。
そういう面白さがありますね。 夏になると、
麦わら帽子に長靴、そしてとても長い竿を持った影が、
古座川にたくさん現れます。
このおじいさんもその一人。
いつもにこにことしているのに、
鮎釣りの話をはじめた瞬間に顔つきが変わりました。
そんな元気なおじいさんたちの捕る鮎はきっと、
ぴちぴちとしてとても元気に違いありません。
紀伊半島のいちばん南から、
すこしだけ北へ行ったところにある古座川町。
少し寒い朝には、
谷に川霧がたまって前が見えなくなります。
そんな山深いこの町をながれる古座川は、
平成の名水百選にもえらばれた清流です。
うじゃうじゃと川をのぼってくる、モクズガニ。
岩のあいだからひょこっと顔を出すウナギ。
夜になると目がぴかぴかと光るテナガエビ。
そして、きれいな水のなかを素早く泳ぎ回る鮎。
地元でのおじいさんたちの会話は、
そんな川のはなしでもちきりです。
なかでも鮎は大人気。
いまでは遠くから多くの人が釣りにやってきます。
けれど、鮎が惹き付けるのは人だけではありません。
古座川では夏におおくの天然鮎がのぼって、
秋に川がうずまくほどの大群が産卵をします。
それを狙って川岸にサギの行列がずらり、
普段は静かな古座川町が、一気ににぎやかになって、
人も動物もお祭り気分になってしまうんです。
